入力電圧が変わると設計がどう変わるか
まず,
Vout =5V,
Iout =3Aという条件はそのままで,
Vin の要求仕様を7~10V,9~14V,12~24V,22~40Vの4段階に変化させて,WEBENCHで設計してみます.自動生成された回路図を
図1に,それぞれの条件下での使用部品を
表1に示します.また,コストやサイズ,各種特性の変化を
表2と
図2に示します.
いずれの設計結果も,コスト重視(最適化ダイヤルを3に設定)の場合のものです.また,入力電圧は最小値
Vin minから最大値
Vin maxまで幅がありますが,効率や損失などの特性は最大値
Vin maxにおけるものです.
図1 入力電圧を変えたときの推奨回路
(図をクリックすると別ウィンドウで原寸表示します)
図2 入力電圧を変えたときの実装面積/コスト/効率/損失の変化
(図をクリックすると別ウィンドウで原寸表示します)
表1 入力電圧を変えたときの各コンデンサとインダクタ
項目 |
入力電圧 |
単位 |
7~10V |
9~14V |
12~24V |
22~40V |
入力コンデンサ |
Cin |
20 |
10 |
4.7 |
2 |
μF |
ESR |
0.0025 |
0.003 |
0.003 |
0.003 |
Ω |
サイズ |
37.4 |
23.4 |
38.6 |
37.4 |
mm2 |
コスト |
0.1 |
0.2 |
0.41 |
0.26 |
$ |
備考 |
積セラ×2 |
積セラ |
積セラ |
積セラ×2 |
- |
出力コンデンサ |
Cout |
56 |
56 |
56 |
44 |
μF |
ESR |
0.04 |
0.04 |
0.04 |
0.001 |
Ω |
サイズ |
53.3 |
53.3 |
53.3 |
46.8 |
mm2 |
コスト |
0.36 |
0.36 |
0.36 |
0.34 |
$ |
備考 |
固体アルミ |
固体アルミ |
固体アルミ |
積セラ×2 |
- |
インダクタ |
L1 |
15 |
15 |
15 |
22 |
μH |
ESR |
0.027 |
0.027 |
0.027 |
0.026 |
Ω |
サイズ |
210 |
210 |
210 |
243 |
mm2 |
コスト |
0.43 |
0.43 |
0.43 |
0.92 |
$ |
備考 |
ドラム |
ドラム |
ドラム |
シールド |
- |
表2 入力電圧を変えたときの各特性の変化
項目 |
入力電圧 |
単位 |
7~10V |
9~14V |
12~24V |
22~40V |
WEBENCHの設計データ |
実装サイズ |
417 |
406 |
467 |
492 |
mm2 |
部品コスト |
2.92 |
3.07 |
3.38 |
3.72 |
$ |
効率 |
η |
88 |
87 |
85 |
80 |
% |
トータル損失 |
Pd |
2.03 |
2.18 |
2.66 |
3.73 |
W |
IC損失 |
Pd IC |
1.07 |
0.98 |
1.11 |
1.55 |
W |
ダイオード損失 |
Pd D1 |
0.68 |
0.92 |
1.27 |
1.93 |
W |
出力電力 |
Pout |
15 |
15 |
15 |
15 |
W |
ΔI =0.3Iout としたときのインダクタンス見積もり |
デューティ比 |
DC |
53.9 |
38.7 |
22.9 |
14.2 |
% |
最小インダクタンス |
Lmin |
5.6 |
7.5 |
9.5 |
11.0 |
μH |
特性の見積もり |
出力リプル電流 |
ΔI |
0.34 |
0.45 |
0.57 |
0.45 |
Ap-p |
出力リプル電圧 |
Vripple |
14 |
18 |
23 |
0.4 |
mVp-p |
LC フィルタ共振周波数 |
f0 |
5.49 |
5.49 |
5.49 |
5.12 |
kHz |
入力電圧が高くなると部品がどう変わるか
入力電圧
Vin の変化によって,入力コンデンサ
Cin ,出力コンデンサ
Cout ,インダクタ
L1が変わります.
表1では省略していますが,必要に応じてダイオードD
1も高耐圧で電流容量の大きいものに変わっています.これは,
Vin が高くなるとON時の逆電圧が高くなり,またOFF時間が長くなるため平均ダイオード電流が増えるからです.
● インダクタンスは大きくなる
Vin が高くなると,インダクタ電圧が高くなり
dI /
dt も大きくなります.したがって,
L1を大きくする必要があります.例えば,リプル電流を
ΔI =0.3
Iout に抑えるための最小インダクタンスは,
表2に示すように
Vin が7~10Vのとき5.6μH,22~40Vのとき11μHです.
実際に選択された部品は,
表1を見ると
Vin が22~40Vのときは
L1=22μHとやや大きく,
Vin が7~10V,9~14V,12~24Vのときは
L1=15μHです.いずれも,余裕をもった値になっています.
● インダクタが変わることで出力コンデンサの容量も変わる
Cout の容量は,
L1と
Cout による
LC フィルタの共振周波数
f0が
fSW の1/100程度になるように選ばれています.
Cout は低
ESR であることが重要なので,導電性高分子タイプの固体アルミ電解コンデンサや,積層セラミック・コンデンサを使っています.
● 入力コンデンサの容量は小さくなるが耐圧を高める必要がある
Cin は,スイッチがONの時に過渡電流を供給するものです.
Vin が高くなるとスイッチのON時間が短くなるので,
Cin の容量を小さくできます.ただし,
Vin に合わせて
Cin の耐圧を高くしなければなりません.
表1を見ると,
Vin が高くなるほど容量が小さくなっています.しかし,耐圧を高めたためサイズは小さくならず,コストはむしろ高くなる傾向です.
入力電圧が高くなるとサイズやコストが増加する
一般に
Vin が高くなると,
Cin やD
1の耐圧が高くなり,部品サイズや部品コストが増加する傾向にあります.また,
Vin が低くなるとスイッチのON時間が長くなって,入力コンデンサの容量も大きくなるので,
Vin が7~10Vのときもサイズが少し増加しています.
入力電圧が高くなるとダイオード損失やスイッチング損失が大きくなり効率が低下する
Vin が高くなると,デューティ比
DC が小さくなりスイッチのOFF時間が長くなるため,ダイオード損失が増えていきます.スイッチの定常損失は小さくなりますが,スイッチング損失などそのほかの損失は増えるので,LM22676では
Vin が特に低い領域を除いては,電源ICの損失も増える傾向です.そのため,トータル損失も増加しています.
出力電力(
Pout =
Vout Iout )が変わらないため,トータル損失が増えた分だけ効率は低下していきます.
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