KiCadの回路記号&フットプリントを作る方法
米倉 健太
Kenta Yonekura
KiCadの回路図エディタで使用する回路記号と,基板エディタで使用するフットプリントを作成し,それらを結合する方法について説明します.
USBのマイクロBコネクタUX60SCMB-5ST(ヒロセ電機)を例題にします.
回路記号を作成する
回路図を引く際に使用する回路記号(KiCadではコンポーネントと呼ぶ)が必要です.
抵抗やコンデンサなどよく使用する部品は,KiCadの標準ライブラリに含まれていますが,それ以外のコンポーネントは作成する必要があります.
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回路図記号を作るライブラリ・エディタを起動する
回路図エディタで上側のツールバーの右から4番目の部分に表示されている「ライブラリ・エディタ」をクリックして,図1を起動します.
初めに,左側のツールバーの単位系がインチ系になっていることを確認してください.KiCadの標準ライブラリは全てインチ系で作成されているため,これから作るライブラリもインチ系で設計しないと,標準ライブラリと接続できなくなります.
図1 回路記号を作る画面…ライブラリ・エディタ
実際に図面にピンを配置したり各種の図形を描くためのボタンが並んでいる.上側のツールバーには,ライブラリの読み込みや保存,コンポーネントの新規作成,拡大と縮小といった操作をするためのボタンがある.
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名前を入力して作成開始
上側のツールバーの左から4番目「新規コンポーネントの作成」をクリックすると,図2が表示されます.
図2 コンポーネントプロパティ
USBのミニB,マイクロBのコネクタは5ピンなので,コンポーネント名をここでは「USB5」,標準のリファレンスのデジグネータ(参照番号)を「CN」に設定し「OK」を押します.
ライブラリ・エディタの中央に文字が表示されます.「F1」キーを押すか,マウスの上スクロールで拡大できます.
文字が重なっているので,これを解決しましょう.文字の上で右クリックをすると,図3のようなポップアップが出現するので,「フィールドリファレンス CN」を選択します.
図3 図面上で重なっている部分を選択する場合,どちらを選択するのか確認するポップアップが表示される
すると,図4のメニューが表示されます.重ならないように移動させたいので,「フィールドの移動」を選びます.
図5のように「CN」の文字を「USB5」と重ならない位置に移動します.中央にはコネクタの記号を描きたいので,同様に「USB5」の文字も下へ移動しておきます.
図4 右クリックで現れるポップアップ・メニュー
図5 「CN」の文字を「USB5」と重ならない位置に移動する
●作業中のコンポーネントを保存/再開しやすいように設定する
ここまででいったん,現在のコンポーネントを新しいライブラリに保存しましょう.
上側のツールバー左から10番目の「新しいライブラリへ現在のコンポーネントを保存」をクリックします.ここではファイル名「mylib.lib」でプロジェクトと同じフォルダに保存しました.
保存すると「このライブラリはEeSchemaに読み込まれるまで使用できません」という画面が表示されます.ここでは「OK」を押して消します.ライブラリ・エディタの画面も閉じます.
回路図エディタの画面に戻り,「設定」→「ライブラリ」を選択し,ライブラリ選択画面を表示させます.この状態で,右上にある「追加」をクリックし,先ほど作ったばかりの「mylib.lib」を「コンポーネントライブラリファイル」のリストに追加しましょう.
その後,再度,回路図エディタの上側のツールバーの右から4番目のアイコンをクリックして,ライブラリ・エディタを開きます.
そして,今度はライブラリ・エディタの上側のツールバーの左から2番目にある「作業ライブラリの選択」をクリックします.すると,図6のライブラリの選択画面で「mylib」を選択して「OK」を押します.
これで次回の編集から,上側のツールバーの右から1番目の「ディスクに現在のライブラリを保存」のボタンが使用できます.
図6 回路図エディタで使用するライブラリの選択
●図面上の原点を決めるアンカの配置
コンポーネントの作成を続行しましょう.
図面の原点を決める「アンカー」を設定します.ライブラリ・エディタの右側のツールバー下から4番目の「パーツのアンカーを移動」をクリックして選択します.その状態で,カーソルを図面の真ん中までもっていきクリックします.
これでアンカの配置が完了しました.図面上はあまり変化しませんが,アンカは図面上の原点を決めるという非常に重要な役割を持っているので,忘れずに配置しましょう.
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接続点を決めるピンの配置
右側のツールバー上から2番目の「コンポーネントにピンを追加」をクリックします.すると,カーソルが鉛筆の形に変化します.図面の中でクリックすると「ピンのプロパティ」画面が開きます.この画面では,コンポーネントで使用するピンを設定します.図7のようにUSBのVbus端子を作成する設定をします.
図7 ピンのプロパティ
ここで電源出力などのエレクトリック・タイプの設定もできますが,この設定はERC(Electric Error Checker)の挙動に反映されるので,よくわからないうちは無難な「パッシブ」に設定しておきましょう.
この状態で「OK」を押すと,ピンを図面上に配置できます.好きな場所を選んでピンを配置します.全てのピンを配置すると図8のようになります.
図8 ピンの配置
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外形のボディを作成して完成
次に右側のツールバー上から4番目の「コンポーネントのボディに矩形を入力」を選択し,左上から右下まで,ピンの文字を囲むように矩形を追加します.
6番のピンの右上で一度クリックし,そのままマウスを右下の5番のピンの左下まで移動し,ちょうど良い場所で再度クリックすると,図9のように矩形が追加されます.これで,USB5のコンポーネントが完成しました.
図9 ピンを配置して矩形で囲った
電源やGNDなどの回路図記号を作成する
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回路中の同種のピンはすべて接続される電源コンポーネント
通常のコンポーネントは,一つ一つのピンが部品の一つ一つの足に対応します.しかし回路図上で[ 5V]などの電源を表すピンは,実物の部品と対応せず,回路図中の全ての同種のピンが接続されているものとみなされます.そのようなコンポーネントは,「電源コンポーネント」といわれ,他とは少し作成方法が違います.
例として「VBUS」という電源コンポーネントを作成してみましょう.
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既存の電源コンポーネントのコピーから作成
電源コンポーネントを新規に作成する場合は,既存の電源コンポーネントのコピーから開始します.
まず,上側ツールバーの左から2番目「作業ライブラリの選択」から,「power」ライブラリを選択します.そして,上側ツールバーの左から5番目「現在のライブラリから編集するコンポーネントを読込み」をクリックします.電源コンポーネントの中から適当なものを選択して読み込みます.今回は「VCC」を選択しました.
次に,上側ツールバーの左から6番目「現在のものから新規コンポーネントを作成」をクリックします.すると,新しいコンポーネントの名前を入力する画面が開きます.「VBUS」という名前を入力します.
これだとピンの名前が「VCC」のままなので,ピンを右クリックして,ポップアップメニューから「ピンの編集」を選び,ピン名も「VBUS」に変更します.図10のようにできたでしょうか?
図10 既存の電源コンポーネントからコピーして作った,VBUSコンポーネント
ここまでできたら,もう一度,上側ツールバー左から2番目の「作業ライブラリの選択」から「mylib」を選択してから,左から1番目の「ディスクに既存のライブラリを保存」をクリックします.ライブラリの修正について警告する画面が出ますが「OK」を押して続行します.これで,電源コンポーネントが作成できました.
フットプリントを作成する
次は,プリント基板を作る際に欠かせないフットプリントのデータ作成方法を説明します.
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モジュールエディタを起動する
基板エディタのメイン画面で,上側ツールバー左から5番目の「モジュールエディタを開く」をクリックしてください.図11のモジュール・エディタが開きます.
図11 モジュールエディタ
左側に図面で表示する単位やグリッドを設定する表示に関わるボタンが並んでいる.右側には,部品をハンダ付けするパッドを配置したり,図形を書き込んだりするためのボタンが並んでいる.上側には,モジュールの保存や拡大・縮小をするためのボタンが並んでいる.
●モジュールの新規作成
上側のツールバーの左から5番目「新規モジュール」をクリックすると,モジュールの作成画面が開きます.
今回は,ヒロセ電機の「UX60SCMB-5ST」用のモジュールを作成してみます.図12のように名前を入力して「OK」を押します.いったん,このモジュールを保存しましょう.
図12 モジュール作成
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作業中のモジュールを保存/再開しやすいように設定する
モジュール・エディタの上側ツールバー左から3番目の「新規ライブラリを作成して,現在のモジュールを保存」をクリックします.すると.modという拡張子のファイルを保存するダイアログが開きます.ここでは「mylib.mod」に名前を変更して,プロジェクトと同じフォルダに保存してください.モジュールを保存したら,ここでいったん,モジュール・エディタの画面を閉じます.
基板エディタで「設定」→「ライブラリ」を選択します.すると,現在の基板の図面で使用するフットプリントのライブラリを選択する画面が表示されるので,「追加」をクリックして「mylib.mod」ライブラリを選択します.再度モジュール・エディタを開き,上側ツールバーの左から1番目にある「アクティブなライブラリを選択」から,図13のように「mylib」を選択します.
図13 アクティブなライブラリの選択
モジュール・エディタの上側ツールバーの左から6番目にある「ライブラリからモジュールを読込み」を選択して,図14の「モジュール配置」画面から「全てのリスト」を選択し,図15のリストから,先ほどの「UX60SC-MB5ST」を選択して「OK」をクリックします.こうすることで,編集中に上側ツールバーの左から2番目の「作業ライブラリ中にモジュールを保存」のボタンが使えます.
図14 配置するモジュールの選択画面
図15 配置できるモジュールのリスト
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図面上の原点を決めるアンカの配置
モジュールの作成においても,まず始めに,図面の原点を決める「アンカ」を設定します.モジュール・エディタ右側のツールバーの下から3番目の「フットプリントモジュールのアンカ(基準点)入力」をクリックして選択します.その状態で,カーソルを図面の真ん中に移動してクリックします.これでアンカの配置が完了です.図面に表示されないので忘れがちですが,しっかり配置しておきましょう.
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作成する部品のフットプリント図面を用意する
モジュールを作る際には,使用する部品のデータシートが必須です.Webなどで検索して,手元に用意します.今回は,ヒロセ電機のWebページに掲載れていた「UX60SC-MB-5ST」を使用します.データシートによると,この部品の推奨ランド(部品が基板にランディングする部分のことをいう)は図16のようになります.
図16 UX60SC-MB-5STの推奨ランド
ヒロセ電機のカタログ
http://www.hirose.co.jp/catalogjhp/j24000153.pdfより抜粋
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単位系とグリッドの設定
手に入れた図面から,まず真っ先に指定するのが単位系の設定です.これを怠ってインチ系の座標系でミリ系の図面を書いてしまうと,実物の2.5倍のフットプリントになります.
余談ですが,筆者もPCB CAD初心者の頃,全てのフットプリントを自作して基板の図面を引いて,さぁ発注だ!と最終チェックのためにプリンタで図面を印刷してみたところ,巨大な図面が出力されてしまい驚いた経験があります.チェックしたら,全ての部品で単位系を間違っていました.全てのフットプリントが等しい倍率で間違っていると,ディスプレイ上では不自然に見えないので,注意してください.
図16の図面の単位系はミリ系なので,モジュール・エディタの左側ツールバーの上から4番目の「ミリメートル単位」を選択します.次に,図面の左上に表示されているグリッド単位をクリックして「グリッド0.100」に設定してください.
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はんだ付け部分となるパッドの配置
それでは,実際に基板に部品をはんだ付けする部分である“パッド”を配置していきましょう.
まずは1番のピンを配置します.右側ツールバーの上から2番目にある「パッド入力」を選択します.そして図面上で,モジュール・エディタの画面の一番下に表示されているX座標とY座標を見ながら,「X -1.6000 Y -6.100」の位置をクリックしてください.この座標は,図16の1ピンの中心の座標です.
このとき,F1/F2キーやマウスのスクロールなどで拡大と縮小をすると便利です.
最初に配置したパッドは図17のように,期待したものとは違う形になっています.
図17 パッドを配置したところ
そこで,パッド上で右クリックし「パッドの編集」をクリックします.ここでパッドの形を「矩形」に,パッドのタイプを「SMD」に,ジオメトリのパッド幅Xを「0.5」mmに,Yを「1.4」mmに編集します.
x座標とy座標も編集できるので,ここも「-1.6」ミリメートルと「-6.1」mm付近になっていることを確認します.これが基本の操作です.
このフットプリントでは,部品を上に載せたとき,フットプリントとピンの間の隙間がほぼ“ない”状態です.これでは手でハンダできないので,パッドのY座標を-0.5mm移動して「-6.6」に.幅もYは1mm拡大して「2.4」mmにします.こうすることで,フットプリントとピンの間に1mmの間があき,こて先を入れることができます.全ての編集が完了すると,図18のようになります.1番ピンの配置は完了です.
図18 パッドプロパティの編集
パッドの編集が完了すると,モジュール・エディタの画面でも,パッドの形状が変化します.このまま,5番のパッドまで配置します.2番目のパッドは「X -0.8000 Y -6.6000」,3番目のパッドは「X 0.000 Y -6.6000」,4番目のパッドは「X 0.8000 Y -6.6000」,5番目のパッドは「X 1.6000 Y -6.6000」の位置に配置します.
また,USBの端子を固定するためのパッドも配置しましょう.「X -4.2000 Y -3.7000」と「X 4.2000 Y -3.7000」の位置に,パッド幅Xが「2.5」ミリメートル,Yが「3.8」ミリメートルを配置しましょう.なお,正確に「X -1.6000」の部分に配置しようとしても,プロパティで確認すると「-1.60002」の位置に配置されていることが分かると思います.
これは,KiCad内部でミリメートル単位をインチ単位に変換して計算しているためで,実用上,このズレが問題になることはありません.パッドの配置が完了すると,図19になります.
図19 パッドの配置が完了したところ
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部品の外形線を引いて完成
次に,部品の外形線を引きましょう.この線は,実際の基板上でも白い線(シルク印刷という)で描画されます.モジュール・エディタの右側ツールバーの上から3番目「図形ライン(またはポリゴン)を入力」を選択します.クリックで描画を開始し,ダブルクリックで終了します.このとき,図面のグリッドをうまく調整してください.0.05単位にグリッドを合わせないと,3.85といった位置には,カーソルが合いません.
この線はパッドの上にも引けてしまいますが,実際の基板でそのようなシルク印刷があるとエラーになります.最近の基板製造メーカでは,そのようなシルクは自動的に削除してくれますが,本来は図面上でもパッドの上にシルクは載せないほうが良いです.
描画した線を右クリックして,「幅の設定」をクリックすることで,線の幅を編集できます.今回は,全ての線を「0.2」mmにしました.できあがったモジュールを図20に示します.
図20 外形線を引いたところ
ここまでできたら,モジュール・エディタ上側の左から2番目の「作業ライブラリ中にモジュールを保存」をクリックして,モジュールを保存しましょう.以上で完成です.