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ホーム > 記事サポート > 2008年 > 09月号 筆者インタビュー「手軽に試せるようになったディジタル制御電源」

筆者インタビュー002:手軽に試せるようになったディジタル制御電源


~2008年9月号特設記事「ディジタル制御電源でなにができるか」筆者に聞く~

話し手:浜田 智 氏
聞き手:トランジスタ技術編集部

――普段のお仕事の内容や,最近の開発事例などについて教えていただけますか?

いろいろと手掛けているのですが,電源であれば,特殊な計測回路に使用する超低雑音DC-DCコンバータの開発を行っています.電源の出力端を直接スペアナで計測しても,その残留スペクトルがすべての帯域に渡って-100dBm前後の性能です.むしろ空中のラジオ波の方が大きいくらいです.

――もっとも基本的なところなのですが,そもそもディジタル制御電源とはどのようなものを指すのでしょうか.

端的に言うとマイコンやDSPなどのディジタルICで,数値演算して制御する電源です.従来のアナログ回路,つまり抵抗やコンデンサやOPアンプを組み合わせて作る電源とは全く違う制御原理の電源です.

――アナログの制御回路に対してマイコンなどを追加し,動作の開始/停止や異常検出,アラーム通知などを行うといったものの場合はディジタル制御電源とは呼ばないのでしょうか.

そもそも,ディジタル制御電源の公的な規定はないと思います.その上で一般的には,フィードバック制御の部分をリアルタイムでディジタル的に数値演算するものを指してディジタル制御電源と呼んでいます.

ディジタル制御電源なら細かなチューニングや独自の制御方式を簡単に実現できる

――電源のディジタル制御化という要求は,主にどのような理由から発生したものなのでしょうか.

制御の多様性に応えるために生まれてきたと考えられます.

基本的にアナログ制御電源の場合は,ICメーカが用意した機能の範囲内でしか電源を作ることができません.ところが,実際に電源の開発を行っていると物足りないことが多く,自分なりのICがあればとても便利であると感じることが多々あります.

例えば,フィードバック制御を電圧ループや電流ループなどの多重帰還としたり,フィード・フォワード制御をかけたり,いろいろとやりたいことがあります.しかし既存の電源ICを使ったのでは,これがではできなかったりします.

ディジタルならソフトウェアの組み方次第で,自分なりのアルゴリズムの制御とすることが可能で,その発展性は無限大です.

電源のディジタル制御化は,そういう要求から自然と生まれてきたものと思われるのです.

――電源をディジタル制御化すると,具体的にはどのようなことが可能になるのでしょうか.

まず,スイッチング周波数を自在に変えられます.これは軽負荷時や重負荷時などで効率を上げるのに有効です.また,極端に入出力間電圧差が小さくなるアプリケーションにも効果があります.

入力電圧が高いときは,不用意にデューティ比が大きくならないようにデューティ・リミッタを設けなければなりません.こういったことも,ディジタル制御では簡単に実現できます.

電圧異常や過負荷,短絡,温度上昇などの要因にも,制御シーケンスがフィードバック制御部分にきめ細かく介入することで柔軟に対応できます.

――複雑な状態管理や,通信機能などもディジタル制御電源の大きなメリットですね.これらを使うと,従来の電源と比べてどのようなことが可能になりますか?

たとえばディジタル制御ICでバッテリ充電器を構成した場合,組み合わせたバッテリの充放電履歴を管理するといったことができるでしょう.これによって,新品の時代からの特性変化を知ることができます.さらに,通信機能を使って系統の連携や上位ホストに報告するといったことも可能です.

このような通信機能は,今後のエコ・エネルギー分野や電気自動車などで,とても有効だと思います.

――アナログ回路一筋というようなエンジニアにとっては,ディジタル制御のアルゴリズムやDSPといったものは,とても難しいものに見えることもあるかと思います.浜田さんは実際に動かしてみて,どのような感想をもたれましたか?

「とても簡単である」これが感想です.アナログ回路の場合は,抵抗やコンデンサを交換をしながら性能を詰めていきますが,これがとても面倒なのです.ディジタルの場合はエディタで文字を打てば良いだけなので,実に簡単です.

またアナログでは,基本的に抵抗やコンデンサやOPアンプといったアナログ部品の動きを組み合わせて制御アルゴリズムを作りますが,この組み合わせ方にはどうしても限界があります.それに対してディジタルは,アナログ部品の動きを真似するだけでなく,アイデア次第でアナログにはない,まったく自由なアルゴリズムも記述できます.

私の場合,オーディオが好きでディジタル信号処理はずっと親しんできた経緯があり,特に大きな壁はありませんでした.

ディジタル制御電源は数十W以上の中~大型電源向き

――ディジタル制御電源が向いているアプリケーションはどのあたりでしょうか.

今のところは,サイズや価格などからオンボード電源には向いていないと考えます.それよりも,数十Wから数百W以上の中型から大型電源や,入力電圧変動が大きい車載用やソーラ電源など,とにかく複雑な制御や動作が求められる仕様に,もっとも適していると思います.

――サーバ系のプロセッサや大規模LSI向けのPOL(Point Of Load)電源にも,ディジタル制御を謳う製品がいくつかありますね.

ディジタル制御POLに求められるのは,応答性の他にFPGAと連携したシーケンス動作です.ディジタル化は,このような専用用途に効果的です.多少のコスト・アップが伴いますが,それ以上にディジタル化がもたらすメリットのほうが大きいと思います.

単純に+5Vから+12Vに変換するといったごく一般的な電源には,ディジタル制御は高級すぎる面があります.

――ソフトウェアが介在すると,ハードウェアだけで構成した場合と比べて,どうしても時間的な遅れが生じると思います.フィードバック制御をディジタル化,それをソフトウェアで実現するとなると,負荷変動に対する応答性などが劣るのではないかと思うのですが,問題はないのでしょうか.

高い応答性が求められるPOL電源では,専用製品でないと問題になる場合があるかもしれません.しかし,ほとんどのアナログ制御電源は,ループ・ゲインが1になる周波数が数kHz程度だったりします.この程度なら普通にディジタル制御にしてもまったく問題にはなりません.

dsPICの処理能力は30MIPSなので,フィードバック制御以外のシーケンス制御や通信なども並行しても,余裕でこなすことができます.

国内メーカによる開発ツールも含めた製品展開が望まれる

――ディジタル制御電源用を謳うICは,いくつかのメーカで製品化されています.これらの中からdsPICを選んだポイントは何でしょうか.

最も大きなポイントは,SG3524やMB3759といった,よく使う定番のアナログ制御電源ICを簡単に置き換えられたからです.

マイコンやDSPというと,コア用の電源が別途必要だったり,クロックやリセット回路が必要だったりします.ところがこのdsPICは,従来のマイコンやDSPの概念を覆すもので,面倒な外付け回路は必要はありませんでした.これは電源屋の要求を完全に満足するのものでした.
さらに,開発ツールが安い.ICが安い.そして入手が簡単.これも大きな魅力でした.

――電源の設計者として,ICメーカに期待していることはありますか?

今のところ,ディジタル制御電源用ICとしては海外メーカの製品が先行しているように思います.ですがデータシートが英語のままだったりで,面倒な部分が多いのも事実です.ですから,できれば日本のメーカからも,この種のものが出ればとても良いなと思っています.

ただし,ここで問題になるのが開発ツールです.海外メーカは開発ツールも含めてのビジネス戦略が見事で,ある程度の事までできる開発ツールがほぼ無料だったりします.

例えば,今回選んだdsPICもそうですし,FPGAの論理合成ツールもそうです.その点,日本の場合は,いきなり入り口からフルで初期投資を迫られます.「ちょっと試してみよう」と思うエンジニアの気持ちに,うまく応えてくれるかどうかがポイントだと思います.
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