編集部
ワイヤレス給電で配線のない“デジタル世界”を2020年設立 エイターリンク(株)の 紹介と人材募集
電気は情報としてもパワーとしても便利に活用され,私たちの生活に不可欠のものです.ワイヤレス給電におけるグローバルでのリーディングカンパニーとしてワイヤレス給電技術の社会実装を目指す企業が「エイターリンク」です.最初の製品として発売した「空間伝送型マイクロ波ワイヤレス給電ソリューション AirPlug™」を中心として,エイターリンクが切り開こうとしている新しい社会について,代表取締役 CTOの田邉 勇二 さんにお話を伺いました.
田邉さんは,米国スタンフォード大学でマイクロ波技術を応用したバイオメディカル研究プロジェクトに従事し,新しいワイヤレス給電の技術を開発しました.その技術を社会に応用するために,2020年にエイターリンク株式会社を設立しました.
超小型のワイヤレス給電に成功したのがはじまり
スタンフォード大学での研究は?
ワイヤレス給電に関わるようになったのはスタンフォード大学で,バイオメディカルの研究をしていたときです.オプトジェネティクスという,体内の細胞に光を照射することによって選択的に神経を活性化するという医学領域の研究をしていました.最初は,マウスの血管に極細の光ファイバを通して,目的の細胞にピンポイントで光を照射する実験をしていました.光ファイバを通すとマウスの動きを制限してしまうので,光ファイバや電線をつながずに無線化する方法を開発することになりました.
医学分野の研究からのワイヤレス給電なんですね
光源としてマウスの体内に極小型のLED を埋め込み,外部からワイヤレスで電源を供給するという方法を考えました.当時でも,ワイヤレス給電が実用化されている分野はありましたが,これほど小型にする例はなく,いろいろと試行錯誤しました.マウスの大きさからいって,大型のコイルや充電式のバッテリは埋め込めないので,マイクロ波を使って常時電源を供給する方法を試みました.その結果,受信アンテナや回路を最適化して設計すれば,かなり給電の効率を高めら れることが分かりました.送電機から受電機までの距離も離すことが できて,マウスの自由な動きを制限することもなく,オプトジェネ ティクスの実験を行うことができました(図1).
ここで成功したワイヤレス給電のしくみは,供給できる電力は小さいですが,自由な動きを妨げない利点があり,他の医療分野でも応用可能だと思いました.そこで,次に開発したのが極小型の心臓ペースメーカです.
心臓ペースメーカをワイヤレス給電するのですか?
心臓ペースメーカは実際の医療現場で長年使われていますが,電源 として電池を使っているので大型になり,電池の寿命が来る前に切開 手術をして交換する必要があります.これは,患者さんに大きな負担 です.ペースメーカ自体はそんなに大きな電力は使わないので,電池 がなければとても小型にできます.私たちが開発した極小型の心臓 ペースメーカは,胸の切開手術なしで,心臓に続く血管を通して直接 心臓内に埋め込むことができます(図2). 他にも,オプトジェネティクスの応用の一つで,光を使った脳腫瘍 の治療の研究や,アルツハイマー病の治療の研究も行っています.ワ イヤレス給電は,いろいろな新しい医療を作り出せる技術です.
医療だけでなく社会全体を変えていける技術,会社設立へ
医療だけでなく,さらに広い応用を考えるようになったのはなぜですか?
電源というのは,誰もが必要としていて,誰にでも役立つ汎用の技術です.マイクロ波を供給している空間がどんどん広がれば,社会全体をより便利に,画期的に変えていけるのではないかと考えました.具体的にどんな場所でどのように使えそうか,最初はいろんな人と話をすることから始めました.そんな中で2017 年に友人の紹介で,シリコンバレーに長期出張で来ていた岩佐( エイターリンクの共同創業者)に出会いました.岩佐は工場のFAシステムやセンサの問題に詳しく,従来のセンサには電源の問題があるというのです.センサの給電ケーブルの断線が多く,ラインが停止すると短時間でも数百万円の損失になることもあって,困っている工場が多いのだそうです.今後,センサの数はどんどん増えますし,電源の問題はさらに切実になっていくと言われました.
岩佐は帰国してからもいろいろ考え続けていたようで,半年後に連絡をもらい,FA におけるワイヤレス給電の可能性を二人で検討し,他にも事業化できそうな分野をいろいろ考え,2020年にエイターリンクを設立しました.
エイターリンクの事業とAirPlug™
エイターリンクで進めている事業について教えてください
究極の目標は,ワイヤレス給電によって配線のない“ デジタル世界” を実現することです.私たちの技術を使えば,空間なら20mの距離まで給電が可能です.マイクロ波を透過しにくい人体でも20 cmの深さまで給電できます.これらは,既存のワイヤレス給電技術ではできなかった,世界初の実用可能な給電技術です.アンテナや低入力高出力受信回路の技術を中心に,60件の特許申請のうち国内外合わせて20件以上の取得となっています.
私たちの技術の特徴は,単に電力を供給するだけでなく,マイクロ波を利用してワイヤレスで双方向の情報のやりとりができることです.電力の受電機の側から送電機に対してフィードバック信号を送り,効率を最適化することもできます.工場のセンサの例でいえば,給電ケーブルもデータケーブルもない,完全なワイヤレスセンサを実現することも可能です.
BM の分野で,まず製品としてAirPlug™を発売しました(写真1, 図3).この部屋(エイターリンクの錦糸町オフィス)でも実際に使って いるのですが,天井に埋め込んだ送電機(写真2)と,机の上など人近 傍に置いた受電機がセットになっています.送電機から送った電力を, 部屋の中のどこでも受電できます.
受電機のセンサで取得した人近傍の温湿度データを空調機器に フィードバックすれば,部屋のあらゆる場所の環境を最適化し,空調 システムを効率化できます.照度センサや人感センサ,ドア開閉セン サなどさまざまなセンサを組み合わせて,照明などさまざまなシステ ムの最適化も可能です.ビル全体で26%ぐらいの電気代削減ができ, 社会全体でのCO2 削減を,メンテナンスフリーのシステムで実現でき ます(図3).
会社の現在と求める人材
エイターリンクの会社について教えてください
エイターリンクは2020 年に設立されて,現在( 2024 年7 月)66 名の社員がいます.国籍では7カ国の人が在籍し,日本語や英語でコミュニケーションしています.オープンなコミュニケーションが大事だと思っているので,社内もパーティションで分けず,誰かが面白そうなことをやっていれば,みんなが集まったりできる環境にしています.
会社に来て欲しい人材は,どんな人ですか?
新しいこと,未知のことに臆せず飛び込める人が来てくれると嬉しいです.自分自身のことを考えてみても,1人でできることには限界があると思っています.コミュニケーションの中から新しいアイディアが生まれますし,それを形にしていくことが大事だと思います.英語はしゃべれる方がいいですができなくても大丈夫です.人がやっていることに興味が持てれば,言葉は後からついてくると思います.
無線,回路,ファームウェア,ソフトウェアなどいろいろな分野の人に来て欲しいですね.今後は,システムの設置やオペレーションが得意な人,ビルや工場の現場を知っている人にも来てほしいと思っています.
何よりも,自分が作った製品が世の中に広まるのが嬉しいという人には,ぜひご応募いただきたいです.
インタビュアー:宮崎 仁